2006年6月16日(金)

E39 サスペンションキットの交換 フロント編 − ミッチョさんより

E39に乗り換えられたミッチョさんより、サスペンションキット交換のレポートをいただいたので紹介しよう。今回はフロント編だ。


【はじめに】

中古で購入したE39はもとはノーマルの525ハイラインだが、BILSTEINのBTSキットが装着されていた。BTSキットはフロントで40mm、リアで30mmのローダウンとなり、かなり車高が低くなっていた。おまけにSpit-zeのフルエアロが装着されていたため、ちょっとした段差でフロントやサイドをこすってしまっていた。


写真1 BTS+フルエアロ

まずはエアロを取り外したところ(写真2)、道路の段差で気を使うことは少なくなった。しかし、高速道路での安定性は抜群だが、街乗りでは少々ハードさが気になるところだ。Mテクサスの20mmダウンが、私にはちょうどよい車高と乗り心地だと以前から考えていた。


写真2 エアロパーツを取ったところ

先日、ネットオークションでE39 530 Mスポーツのサスペンションを入手したので、D.I.Yでのサスペンションキット交換に初挑戦することにした。長めのレポートになるので、フロントとリアの2部に分けてレポートする。

【フロントサスの交換手順】

リペアマニュアル(TIS)で手順を確認すると、フロントの交換はE34の手順とは少々違うようだ。スプリングコンプレッサーとボールジョイントプーラーが必要だが、持っていなかったので新たに購入した。

図1はフロントサスペンションの構成図である。そのほとんどがアルミ部品で構成されていて、非常にお金がかかっている。整備書で確認すると、サスペンションの分解はおおよそ次のような手順となる。


図1 フロントサスの構成図

(1) ブレーキキャリパーを取り外す。
(2) ペンドラムサポート(スタビライザーリンク)を外す。
(3) タイロッドのボールジョイントを外す。(図2)
(4) ピボットベアリングの固定用のナットを緩め、ストラットチューブの取り付け部分を広げる。(図3・4)
(5) スプリングストラットの上部ナット(アッパーマウント)を外す。(図5)
(6) スプリングストラットの上部をホイールハウスから外側に出す。(図6)
(7) スプリングストラットを抜き取る。(図7)


図2 タイロッドの取り外し


図3 ストラットチューブ固定部分


図4 ストラットチューブ取り付け部分を広げる


図5 アッパーマウント取り付け部分


図6 ストラットをフェンダーから出す


図7 ストラットチューブの抜き取り

写真3は以前に所有していたE34 M5のショック交換した際、ストラットを外した場面だ。


写真3 E34のフロントストラット

E34の場合はフロントストラットをハブ部分も含めてすべて取り外し、ストラットケース内部のショックを抜き取る。E39はショック自体がストラットチューブを構成していて、ハブ部分を車両に残してスプリングストラット部分のみを抜き取る。整備書には2人で作業をするように書かれていたが、何とかなるだろうと作業に取り掛かった。

【実際の交換作業】

写真4はジャッキアップしてウマをあてがったところである。


写真4 ジャッキアップしたところ

40mmダウンしているので、フロントにはスロープがないとジャッキが入らない。

1 ブレーキキャリパーの取り外し

実は、今回は横着をしてブレーキキャリパーを外さないで作業を開始したのだが、ブレーキホースに負担がかかるのでやはり取り外して作業すべきだ。ブレーキキャリパーを外すには、7mmの六角レンチでガイドボルトを外すことが必要である。(図8)


図8 ブレーキキャリパーガイドボルトの位置

この7mmというサイズは大きなホームセンターなどにも置いていないことが多い。固く締まっていることが多いし、締め付けのトルク管理のことも考えると、D.I.Y.で作業する場合はソケットレンチ用のコマを用意しておくとよい。国内メーカーのものを取り寄せてもらえば、それほど高くはない。(KTC製の9.5sq.で745円) 
締め付け時のトルク:30Nm

2 ペンドラムサポートの取り外し

写真5はペンドラムサポート(スタビライザーリンク)で、片側を取り外す。


写真5 ペンドラムサポート

ナットだけを回しても、ボールジョイントが空回りするので、17mmのスパナで固定してナットを回す必要がある。取り外したらボールジョイント部分のガタを確認しておく。ガタがあると異音の原因となるので交換が必要だ。少し緩くなってはいたが、ダストブーツの破れなどはなく、まだしばらくは使えそうだ。
締め付け時のトルク:65Nm

3 タイロッドの取り外し

写真6はタイロッドの取り付け部分である。このボールジョイント部分の勘合を外すには、ボールジョイントプーラーが必要である。


写真6 タイロッドの接合部分

ナットを外してプーラーを差し込み(写真7)、ボルトを締め込みつつハンマーでショックを与えると「ガコン」という音とともに外れた。(写真8)


写真7 ボールジョイントプーラーを取り付けたところ


写真8 外れたタイロッドのジョイント

このテーパー勘合はなかなか外れない場合もあり、びくびくしならが締めこんでいったが、意外にあっさりと分離することができた。このジョイント部分もガタは無く、まだしばらくは使えそうだった。 
締め付け時のトルク:65Nm

4 ピボットベアリングのストラットチューブ固定用ナットを緩め、取り付け部分を広げる

固定用ナットは18mm、ボルトは16mmと普通の工具セットには無いサイズのレンチかソケットが必要である。整備書には図4のような「スペシャルツールで固定部分を広げる」とある。多少擦り傷はできるが、マイナスドライバーを差し込んで広げた。
締め付け時のトルク:81Nm


図4 ストラットチューブ取り付け部分を広げる(再掲)

5 アッパーマウントのナットを取り外す

エンジンルームから、アッパーマウントを固定している3個のナットを取り外すと、ストラットが下がるようになる。

6 スプリングストラット上部をホイールハウスから外側に出す

図6のようにストラットを外側に出すのだが、アッパーマウントがフェンダーぎりぎりの位置を通るので、傷をつけないように慎重に作業する必要がある。


図6 ストラットをフェンダーから出す(再掲)

整備書にはフェンダーに保護カバーをつけて2人で作業するように書いてある。ひとりでも可能だが、2人でやったほうが楽なのは言うまでも無い。

7 スプリングストラットをピボットベアリングから抜き取る

ストラットを抜き取るだけだが、整備書には回転させると傷がつくのでまっすぐに引き抜くように書いてある。素人整備には多少の傷は問題とならないが、ディーラーマンはこんな傷にも気をつかわなければならないのだろう。写真9はストラットを抜き取った後である。スペシャルツールがないので、ドライバーを差し込んで取り付け部分を広げてある。


写真9 スプリングストラットを抜き取ったたところ

8 サスペンションキットの分解と組み立て

写真10は取り外したBTSキットである。


写真10 取り外したBTSキット

スプリングコンプレッサーでスプリングを縮め、トップナットを緩めて分解する。トップナットを緩めるには、本来は図9のようなスペシャルツールで行うのだが、充電式のインパクトドライバーで緩めることができた。BTSは17mmで、純正は16mmのナットが使われていた。
締め付け時のトルク:64Nm


図9 トップナット用スペシャルツール

図10はアッパーマウント部分の部品構成である。


図10 アッパーマウント部分の構造

この14番の部品は「悪路パッケージ」のアダプターと記載されているが、外国にはそんなパッケージがあるんだ・・・・と変に感心したりする。今回、購入したMスポーツのサスキットには、アッパーマウントやバンプラバー、スプリングパッドなども付属していたが、スペーサーやワッシャー類が無かったので外した足から移植する必要がある。

写真11は、左からBTS、Mスポ、ノーマルのスプリングを比較したものだ。


写真11 BTS・Mテク・ノーマルの比較

コイルの巻き数はほとんど同じだが、長さが随分と違うことがわかる。BTSのスプリングは「H&R」社製のショートストローク用で、スプリングコンプレッサーで縮めるのは簡単だった。それに比べ、ノーマルとMテクサスは手作業だと縮めるのに泣きが入るくらい大変である。インパクト対応のコンプレッサーと強力な電動インパクトレンチが急に欲しくなった。BJさんのレポートを急に思い出した瞬間でもある。

しかし、純正のショックケースとアッパーマウントはアルミ製で手で持っただけでも軽いことを実感した。すごいぞ純正品! 何とか組み立てをして、いよいよ取り付けに移る段階までこぎつけた。

9 組み付け

組み立てたMテクサスを組み付ける際に問題が発生した。同じだと思っていたアッパーマウントに余分な突起があって、そのままでは装着できないことがわかった。写真12の右が車両に付いていたもので、左がMスポ(後期モデル)のサスに付いていたものだ。当然、部品番号が違っている。


写真12 新旧のアッパーマウント

突起以外はすべて同じサイズであるので、古いマウントを使えば問題ないが、比較してみるとどう見ても劣化している。まあ、合わせマークの意味しかないようなので、グラインダーで削り取ってしまうことにした。アルミ製なので楽勝である。

分解したのと逆の手順で組み付けていけばOKだが、ピボットベアリングとストラットを固定するときは「L」と「R」の合わせマークを合わせ、ジャッキでサスを縮ませてから締め付ける必要がある。E34と違って、軽量なサスに加え、ハブ部分全体を持ち上げる必要がないので、1人でも重さは苦にならない。トルクレンチを使ってボルト・ナット類を規定のトルクで締め付ければ完成だ。

10 交換後の車高変化

表1は、整備書(TIS)の車高の基準値だ。

表1 規定の車高

これによると、車高はホイールリムの下端からホイールハウス(フェンダー)までの長さを計測することになっている。ただし、この規定値は「ノーマルポジション」で計測することになっている。ノーマルポジションとは、次の条件のことである。

 (1) 燃料を満タン
 (2) フロントシートをセンターポジションにして68kgの錘を左右に各1個
 (3) リアシート中央に68kgの錘を1個
 (4) トランクルーム中央に21kgを1個

ホイールアライメントも、ノーマルポジションで計測するように規定されているが、ここまで徹底する必要は無いだろう。しかし、BMW社のこだわりが感じられる部分である。日本のメーカーもこんな規定があるのだろうか?

写真13は交換前と交換後の変化を合成したものだ。


写真13 交換前後の比較

フェンダーアーチの高さが違ってるのが分かると思う。サス交換後の長さを実測すると、右:578mm 左:580mmであった。16インチの純正ホイールだから、スポーツサスペンションの規定値より右6mm、左8mm高いことになる。「ノーマルポジション」の規定を考えれば、全く問題は無いはずである。BTSキットのときより、20mm高くなったことで、手持ちのフロアジャッキがスロープ無しで入るようになった。今後はこのスロープの出番は無いだろう。

初めてのサス交換で、あれこれ考えながらやっていたため、フロントだけで丸1日かかってしまった。結構な重労働であり、工賃の高さも納得できる。「道具がもっと揃っていれば」と考えると、また煩悩が・・・・。

サスペンションがバラバラになっている状態を、母が見て一言、「走るようになるの?」

交換後のインプレッション・アライメント計測結果などは、リアの部の最後にまとめて記載する。 


いかがだろうか? E39の足回りって少しE34と違うことがよくわかるだろう。

末尾ではあるが、いつも詳しく有用なレポートをいただいくミッチョさんに感謝する。近いうちに、リア編も紹介しよう。



<<前の記事へ   次の記事へ>>

ご質問はddkunnejpgmail.comまで。

メンテナンス一覧へ